シニカルで毒のある笑いが好きな理由

街で配っていたLondon Liteというフリーペーパーに面白い記事が載っていました。


  Kerry forced to apologise after Iraq 'joke' backfires


アメリカの民主党議員で元大統領候補のジョン・ケリー氏が学生を前に演説した際、
「勉強を怠けるとイラクで立ち往生するような人生を送ることになる」という主旨の発言をしたとか。
本人はブッシュ政権イラク政策を揶揄する冗談のつもりだったと弁明していたようですが、
差別的でエリート主義的であるとして大変な批判を受け、謝罪せざるを得なくなったそうです。


このことの背景にあるのは、軍隊に入る青年の多くが低学歴で、
イラクがどこにあるのか、なぜ自分がそこで戦うのかも理解していないという問題です。
しかし、彼らが兵隊になるのは勉強を怠けたせいだというのは必ずしも公平な見方ではありません。
現実には、所得が低く高等教育を受けられないため生活に足る就職先を見つけられない若者が、
きついが給料と資格が手に入る肉体労働くらいの考えで入隊するケースが多いそうです。
(このあたり、マイケル・ムーア監督の『華氏911』の主張に偏りすぎかもしれませんが。)
アメリカの社会が抱えるこのような問題を安易に取り上げたケリー氏の発言は、
冗談だとすれば知的でもユーモラスでもなく嫌悪感だけが残ることばですし、
本気だとすれば政治家としての見識を疑わざるを得ない内容だと思います。


それはそれとして、面白かったのはこの記事と一緒に掲載されていた写真です。
イラクに駐留している兵士が横断幕を掲げている写真なのですが、
そこには次のような文字が書いてあります(原文ではSTUCKのKが逆さま):


  HALP US JON CARRY - WE R STUCK HEAR N IRAK
  (HELP US JOHN KERRY - WE ARE STUCK HERE IN IRAQ)


無理やりそれらしく訳すとするとこんな感じでしょうか:


  目力けてヅヨソ・ケりー - ぼ>たちわイラワで立ら住生レてります
  (助けてジョン・ケリー - ぼくたちはイラクで立ち往生しています)


ほとんど全ての単語のスペルが間違っていて、
「俺たち頭悪いからイラクにいるっす」という皮肉たっぷりのメッセージになっているわけです。


写真に写っている兵士たちはみな一様にしたり顔。
イラク戦争は先が見えず、学歴や所得の格差が広がっていることも事実ですが、
問題の本質を歪めてしまう政治家の非常識な発言にいちいち目くじらを立てるのではなく、
シニカルで毒のある笑いでやり返そうという斜に構えた精神は、なかなか素敵だと思います。