Aarni Penttilä

昨日、研究にまつわる印象的なできごとがありました。
そこで、今日はこれに絡めて、自分の研究について書いてみようと思います。

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ぼくの専門は書記体系の研究です(と将来言えるようになりたいと思っています)。書記体系とは平たく言えば文字のことで、とりわけ言語を書き表すために用いられる記号と、その使い方に関する決まりの集まりを指します。世界にはたくさんの書記体系があります(興味のある方はこちらをどうぞ:http://www.omniglot.com/writing/index.htm)。ぼくはそのすべてに関心がありますが、研究の対象としているのは現在の日本語の書記体系です。

ぼくが特に関心を持っているのは、書記体系と言語の関係のあり方についてです。詳しい話は省きますが、ぼくたちは文字でことばを書き表すことができますし、逆に、文字からことばを読み取ることもできます。この意味で、文字とことばの間には密接な関係があるといえます。ところが、文字とことばはさまざまな点で性質が異なります。また、書き表し方の規範(例えば、ある単語を漢字で書くか仮名で書くかといった判断)は、本質的にはことばの問題ではなく、書記体系そのものに関する慣習的な決まりごとによるものです。このように、書記体系と言語との間には、根本的な違いが多くあるにも関わらず、両者は密接な関係で結ばれているのです。ぼくの研究の目標は、日本語の書記体系と言語との複雑な関係を綿密に分析し記述していくことです。

ある一つの書記体系を研究するためには、すべての、あるいは多くの書記体系に共通する特徴についても知っておくことが望ましいと思います。自分が研究している書記体系がどのような特徴を持っているか知るためには、書記体系全般に通じる一般的な特徴に照らし合わせてみる必要があるからです。そんなわけで、ぼくは日本語の書記体系について研究するかたわら、書記体系の一般理論についても勉強しています。

昨日はこのような勉強の一環として、大学の図書館で古い文献を集めていました。(古いといってもせいぜい1930年代以降のものですが、書記体系の研究はまだ歴史が浅いので、20世紀前半に書かれた文献でも十分に「古い」のです。本当はそこまで古いものを読む必要はあまりないのかもしれませんが、古物収集のようなもので、半分ぼくの趣味です。)その過程で、フィンランドのAarni Penttiläという学者の論文に関する記述に出会いました。主にフィンランド語の文法を記述した言語学者だそうですが、書記体系についても当時最新鋭の論文を発表していたとのことです。

興味をひかれ、早速探してみましたが、残念ながら図書館には彼の著作はありませんでした。そこでネットで検索してみたところ、インターネットって素晴らしいですね、Penttiläの業績を称えるウェブサイトが見つかり、そこに彼の論文が収められていました(http://www.kaapeli.fi/aarnipenttila/index.htm)。さらに幸運なことに、書記体系に関する論文の中には、フィンランド語で書かれたものに加え、英語やドイツ語で書かれたものがあったのです。フィンランド語はまったく分かりませんが、英語とドイツ語なら、時間さえかければ読むことができます。特に後期の著作は英語かドイツ語のものが多いので、彼の書記体系研究の集大成を学ぶことができるわけです。隠された宝物を掘り当てたような気分で、一人で興奮してしまいました。

書記体系の研究は、まだまだマイナーな分野です。今はまだ夢のまた夢ですが、いつか自分の研究を通してこの分野の発展に貢献でるようになったら素敵だなと思っています。そして、ぼくの知らないだれかが、昨日のぼくと同じように、偶然その研究成果に触れるような機会があったなら・・・そんな空想を心のよりどころとしながら、今日も書記体系について考えています。