ぼくも食べたい


イギリスではパイといえばボリュームたっぷりのパブの定番料理です。
中身はビーフ、ポーク、ラム、マトン、鳩などの肉と野菜を使ったものが多く、
素材や味付けにこだわった特製パイを売り物にするパブもたくさんあります。
マッシュポテトを添えて熱いグレービーソースをかけたパイは魅惑的で、
大人も子供も大好きな、ちょっとしたごちそうです。
そんな美味しいパイに目がないのは、なにも人間だけではありません。


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イングランド北西部のWiganでは、毎年パイの早食い大会が催されます。
World Pie Eating Championshipsと呼ばれるこの大会、
今年で第15回を数える伝統あるイベントで、規則もなかなか厳密です。
特に競技用のパイの保管については、不正防止のためにしっかり定められていて、
大会当日までは優勝経験者が責任を持って管理することになっています。


今年の保管係は95年度大会の優勝者であるDave William氏。
大切なパイを自宅の冷蔵庫にしまい、飼い犬のCharlieと共に番をしていました。


大会を翌日に控えた水曜日、事件が起こります。
パイを会場へ運ぶため、Williams氏が冷蔵庫を開けたその時、
間の悪いことに鳩が煙突に潜り込み、出られなくなってしまったのです。
鳩を救うため、慌てて表へ飛び出すWilliams氏。
数分後、部屋に戻った彼は信じられない光景を目にします。




扉が開け放たれたままの冷蔵庫。
満足げな表情のCharlie。
そして、彼が食べ散らかした無数のパイ。

 (Sky News)




被害は甚大でした。
Charlieは実に20個ものパイを平らげ、さらに10個をだめにしてしまったのです。
大会は翌日に迫っている上、パイは規則で規格が定められた特注品。
主催者をはじめ関係者は大混乱に陥りました。
結局パイ職人が徹夜でパイを焼き直し、なんとか本番にこぎつけたそうです。


これだけでもかなりコミカルな事件ですが、事態はさらなる展開を見せます。
大騒動を引き起こした食いしん坊のCharlieくん、その喰いっぷりが認められ、
なんと選手として正式に大会に参加することになったというのです。
BBCは主催者の言葉を次のように伝えています:

We've nothing in the rules to say dogs can't compete so he
will be lining up against the other pie eaters and judging by
his performance yesterday he's got a great chance of winning.


規則には犬は競技に参加できないなんてどこにも書いてないですからね、
他の選手たちと戦うことになりますよ。それに昨日の実績を考えれば、
彼が優勝する可能性も大きいですよ。


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前日の大食いが祟ってか、
Charlieの戦績はさほど振るわなかったようですが、そこはそれ。
なんともユーモラスなニュースに、ほのぼのした気持ちになりました。