去っていった四月を偲んで


大好きな詩人グールモンの、
大好きな「柊」という詩を。

シモーヌ 太陽は柊の葉の上に笑い、
四月は また帰って来た 僕らと遊ぶため。


四月は 肩に花籠を載せて来る、
四月は 花を野ばらにやる 橡(つるばみ)にやる 柳にやる。


四月は 野の草の間に 一つ一つ花を撒く、
小川の岸へも 堀ばたへも 溝のふちへも。


四月は ふさわしい場所で枝をひろげさせるために、
水のためには長生草(うきぐさ)を 森のためには石楠花(しゃくなげ)を 除けて置く。


四月は 木蔭に菫の花をまき散らす 木苺の下蔭に、
四月は勢いよく素足の爪先で 菫の花をかくし 菫の花を埋める。


四月は あらゆる牧場にデージーをやる、
鈴のネックレスをした桜草をやる。


四月は 森の清らかな小径に沿って
鈴蘭とアネモネをこぼして行く。


四月は 家々の屋根に 燕子花(かきつばた)を植えもする。
そうしてシモーヌ 日あたりのいい僕らの庭に、


四月は来て おだまきと はな菫と ヒヤシンスと、
丁子のいい匂いをただよわせる。


レミ・ド・グールモン「柊」(『シモーヌ 田園詩』より)
堀口大學訳(『堀口大學全集』小沢書店)[括弧内、原文では振り仮名]




【参考】
レミ・ド・グールモン Rémy de Gourmont:生涯と作品 (壺齋閑話)
Rémy de Gourmont (1858-1915) (Pegasos)